シェルパワークス株式会社 代表取締役社長 米倉 達哉氏
新規顧客の開拓や営業組織の強化は、多くのBtoB企業に共通する経営課題です。一方で、環境変化が激しさを増す今、従来の営業手法や人材育成の延長線上では対応しきれない場面も増えています。
BtoBの営業強化領域に特化し、「日本の営業を元気にする」ことをミッションに掲げるシェルパワークスでは、現場に入り込みながら営業組織の変革を支援しています。
本記事では、代表である米倉氏に、営業の再現性を高める考え方、リスキリングの本質、AI時代に求められる営業人材のあり方について伺いました。
営業組織の変革支援を通じて見えてきた、日本企業の課題
━━ 現在、御社ではどのような企業課題を支援されていますか?
弊社はBtoBの営業に特化し、営業の再現性と高度な標準化を実現するための実行支援を行っています。
営業プロセスを設計するだけでなく、その中で何が重要な成功要因になるのかをハイパフォーマー分析から整理し、今の時代に合った営業のあり方へアップデートしていくのが役割です。
さらに、設計した仕組みを現場で実際に使える形に落とし込み、お客様が最終的に自走できる状態まで伴走しています。ご相談として多いのは、「営業スタイルを変えなければいけないが、何から手をつければいいかわからない」「属人化を解消したい」「売れる人とそうでない人の差が大きい」「マネジャーが育たない」といったものです。
営業組織の悩みを、仕組みの力で解決していく支援だと捉えています。
━━ 多くの日本企業の営業組織に共通する課題を、どのように見ていますか?
営業という側面から見た時、日本企業には組織的な再現性のなさが大きな課題としてあると感じています。
優秀な営業がなぜ売れているのかを組織の中で言語化できていないため、できる人は成果を出し続ける一方で、できない人は伸びにくいままになってしまう。この構造が、属人化や格差を広げている要因だと思います。
加えて、慢性的な人手不足や人材の流動化も影響しています。マネジャーが手塩にかけて育てた人材が離職したり、マネジャー自身がプレイングマネジャー化して育成に手が回らなかったりするケースも少なくありません。マネジャー自身がプレイヤーとして動く方が早いと考えがちですが、それでは組織は強くなりません。今の日本企業に求められているのは、マネジャーが『自分で売る力』から『組織に売らせる力』へと視点を転換することです。
以前のように先輩から後輩へ知見が蓄積されていく構造が崩れ、組織のナレッジが残りにくくなっているのが現状だと見ています。
━━ 優秀な営業の「再現性」が生まれにくいのはなぜでしょうか?
営業はどうしてもセンスや感覚で捉えられやすい仕事です。
できる人が感覚的に成果を出せること自体は強みですが、組織としてそれをそのままにしてしまうと、多くの人は再現できません。できる人だけができる状態を許してしまうと、組織全体として成果が安定しなくなるんです。
しかも、多くの企業ではその再現化をマネジャー任せにしています。
しかし、マネジャー自身もプレイヤー化していて余裕がなく、言語化も十分にできていないことが多い。たとえ理解できても、「分かるからできる」の間には壁があります。
その壁を越えるには、成熟度に応じて足場をかけるような育成設計が必要ですが、そのやり方まで整理できていない。だから再現性が生まれにくいのだと思います。
3つの転機が形づくった、米倉氏のリスキリング観

━━ これまでのキャリアの中で、仕事観や組織観が変わった転機を教えてください。
振り返ると、私のキャリアには大きな転機が3回ありました。そしてそれぞれが、今の「シェルパ(伴走者)」というスタイルに直接つながっています。
最初の転機は転職です。旅行業界の営業から、営業コンサルティング会社の営業職に移りました。そこで直面したのは「自分自身がショーケースにならなければいけない」という環境の変化でした。営業コンサルを売るには、自分がビジネス構造や経営戦略を理解した上で話せなければ、まったく説得力がない。
お客様から見て「この人自身が、営業ができている」と映らなければ、そもそも話を聞いてもらえない世界です。このとき初めて、「自分が体現していないことは、人に伝えられない」という感覚を持ちました。
そこで、これまで旅行会社で感覚的にやっていた営業から、当時の会社で提供していただきセールスサイエンスメソッドを徹底的に学び、実践していきました。
次の転機は独立です。営業とコンサルをやっていればよかったものが、急にデジタルマーケティングや商品開発、経理、法務まで自分でやらなければいけなくなりました。
知らない領域に放り込まれる感覚でしたが、同時に「クライアントの経営層も、まさにこういう状況にいるんだ」ということをリアルに実感した時期でもありました。
そこで、色々な専門家の情報を収集しましたが、ベキ論だけだと当時の会社の事情とかけ離れたことが多かったからです。
そのとき気づいたんです。「わからない」という状態にいる人に本当に必要なのは、正解を渡してくれる専門家ではなく、同じ景色を見た上で「一緒に考えよう」と隣に立ってくれる人だ、と。
自分がその状況の当事者だったからこそ、初めてわかったことでした。それが「伴走」という言葉に込めた意味の核心です。
そして今の転機がAIです。現在、AIを活用したセールスアセスメントのプロダクト開発に取り組んでいます。
ここでの苦労は、独立のときとまた種類が違いました。独立のときは「知らない業務が増えた」という苦労でしたが、今回は「自分が20年かけて積み上げてきたコンサルの知見を、どうプロダクトという形に落とし込むか」という設計の難しさです。人と対話しながら引き出してきたものを、構造化してシステムに乗せる。頭の中にあるものを「見える形」にする作業は、思っていた以上に難しく、今も格闘中です。
技術的な部分は専門家に任せながら、自分はビジネス設計と構造化の側で学び直しています。コンサルタントとして「人に伝える」ために言語化してきたことを、今度は「プロダクトとして届ける」ために再言語化している感覚です。
ここでも「自分が先に試して、体験してから届ける」というシェルパの姿勢は変わっていません。そしてまた、この苦労の過程にも、一緒に考えてくれる伴走者がいます。
3回の転機に共通しているのは、いずれも「環境が先に変わり、自分が当事者として壁にぶつかった」ということです。そして振り返ると、そのたびに必ず、隣で一緒に考えてくれる伴走者がいました。答えを教えてくれるわけではない。でも、「大丈夫、一緒に考えよう」と隣に立ち続けてくれる人の存在が、どれだけ力になったか。
その経験があるからこそ、自分もそういう存在でありたいと思うようになりました。シェルパとは、頂上を知っている人間ではなく、同じような壁にぶつかった経験を持つ人間が、クライアントの隣に立ち続けることだと思っています。伴走してもらった恩を、今度は自分が返していく——それが今の仕事の根っこにある感覚です。
リスキリングは「自分の価値をアップデートする行為」
━━ 米倉社長は「リスキリング」をどのように捉えていますか?
リスキリングという言葉を現場の方に伝えると、特にベテランの方ほど「また新しいことを覚えなければいけないのか」と身構えることがあります。
忙しい中でそう感じるのは自然なことですし、その感覚自体はよく理解できます。ただ、私自身はリスキリングを、「自分の価値を環境の変化に合わせてアップデートする行為」だと捉えています。
環境が変わっているのに、自分だけが従来のやり方にとどまってしまうと、どうしても停滞が起こります。逆に言えば、変化に合わせて自分を更新し続けることで、選ばれ続ける状態をつくることができる。
そのようなことからも、リスキリングは新しい知識を増やすためだけのものではなく、自分の価値を社会や顧客に対してどう保ち、どう高めるかという営みだと思っています。
━━ 営業の現場では、どのようなアップデートが求められているのでしょうか?
以前の営業は、お客様との人間関係を築くことや足で稼ぐことが中心だったと思います。
もちろん、そうした力が不要になるわけではありません。ただ、今はそれだけでは選ばれにくくなってきています。お客様のビジネス課題を正しく捉え、データをもとに分析し、どの課題をどう設定するかまで考えることが求められているんです。
提案も単なる説明では足りません。裏付けとなるデータや論理構成を持ち、お客様にとって本当に刺さる形で示していく必要があります。
つまり、感覚や関係性だけで進める営業から、課題設定や論理性を備えた営業へと変わっているわけです。昔のやり方の延長では通用しにくい時代だからこそ、営業そのものをアップデートし続ける必要があると考えています。
AI時代の営業に必要なのは「問い」と「決断を導く力」
━━ AI時代において、営業人材にはどのような力が求められますか?
AIを活用することで、「分かるからできる」の壁は確実に低くなると思っています。
自分のスキルや能力がまだ十分に成熟していなくても、一定レベルまで到達することは以前より容易になるはずです。つまり、基礎的な部分を補助してくれる存在として、AIは非常に大きいと感じています。
ただし、その先の本質的な価値は別です。本当にお客様が抱えている状態を捉え、この先を見通した時に何が必要なのかを見極め、それを主導していく力は人に残ります。特に営業では、情報を渡すだけではなく、お客様の思考を前に進める役割が重要になります。
AIが答えを示せる時代だからこそ、何を問い、どこへ導くかという人の力がより問われるようになると思います。
━━ AIによって営業の仕事はどのように変わっていくとお考えですか?
AIが広がることで、お客様自身も「何が良い選択か」を判断しやすくなっていくと思います。
情報に裏打ちされた最適解の候補が見えるようになれば、「こうすればよいのか」という理解までは進みやすくなるでしょう。しかし、その通りに投資し、本当に実行するかどうかは別問題です。AIによって合理的な判断材料が増えるほど、逆にリスクが見えすぎて『情報過多で決断できない』状況が増えています。
だからこそ、合理的な判断とリスクを伴う意思決定の間のギャップを埋め、顧客の背中を押して『決断を主導する』ことに、人間にしかできない価値があるのです。判断ではなく、意思を持って決める「決断」をどう主導していくか。そのためには、お客様が感じているリスクや迷いを理解した上で、前に進める関わり方が必要です。
AI時代の営業は、提案者であると同時に、決断を後押しする伴走者としての役割を強めていくのではないでしょうか。
━━ これからの提案営業で、個人が磨くべき視点は何でしょうか?
これから特に重要になるのは、「問いを立てる力」だと思っています。
お客様が今どんな状態にあり、今後どの方向に進みたいのか。その整理が曖昧なままでは、どれだけ情報をそろえても、本当に必要な提案にはなりません。だからこそ、相手の状況を深く捉える問いが必要になります。
営業というと、答えを提示する力に注目が集まりがちですが、その前段階で何を問うかによって、提案の質は大きく変わります。
問いの質が高まれば、お客様自身も課題を明確に捉えやすくなり、意思決定もしやすくなる。これからの営業では、うまく話すこと以上に、相手の思考を整理し、進むべき方向を一緒に見出す視点が求められると感じています。
成長する人は、経験を「概念化」して自分の軸にしている

━━ 劇的に成長する人とそうでない人の違いは、どこにあると感じますか?
明確に言えるのは、経験を概念化できる人が伸びるということです。
学んだことを実行し、その結果を振り返る。そこで終わるのではなく、「なぜうまくいったのか」「なぜうまくいかなかったのか」を掘り下げていくと、一段上の理解にたどり着けます。その「こういう状況では、こう考えて動くとうまくいく」という形に整理できる力が、概念化だと思っています。
ただ経験を積むだけでは、再現性のある成長にはつながりにくいです。一方で、経験を通じて得た気づきを自分の引き出しとして蓄積できる人は、それがやがて軸になります。
軸ができると、新しい場面に出会っても応用が利くようになり、成功確率も高まっていく。成長する人とそうでない人の差は、この概念化力にあると強く感じています。
また、概念化の前提として、厳しいフィードバックを即座に拒絶せず、『そういう見方もあるのか』と一度受け取れる余白があるかどうかが重要です。その素直な受容が、経験を自分の言葉に落とし込む『概念化』の入り口になります
━━ 学び続けられる人に共通する姿勢や習慣はありますか?
学び続けられる人は、経験学習のサイクルを回せる人だと思います。
『学ぶ・やってみる・振り返る・概念化する』その一連の流れを自分の中で循環させられる人は、次の挑戦にも前向きになれます。うまくいった時も、うまくいかなかった時も、その出来事を材料にして次へつなげられるからです。
逆に言えば、経験をやりっぱなしにしてしまうと、学びは深まりません。どれだけ現場に出ていても、内省がなければ積み上がるものが少なくなる。概念の量をたくさん持っている人ほど、自分なりの勝ちパターンが増えていきますし、それがさらに学びへの意欲を生みます。
学び続けられる人には、経験を整理して自分のものにする習慣があるように思います。
組織が変わる鍵は、言語化と共通言語の設計にある
━━ これまでの支援で、特に印象に残っている組織変革の事例を教えてください。
印象に残っているのは、ある製造業のお客様のBtoB営業支援です。その会社でも、営業プロセスを設計し、ハイパフォーマーから重要成功要因を抽出し、全員がある程度できるようになるよう仕組み化していきました。
最初は本社で設計したものを現場に展開するのですが、多くのマネジャーから「そんな型にはまったものはうちでは使えない」と反発があったんです。
ただ、現場で伴走しながら進めていくうちに、「自分が今までやってきたことが言語化できるようになった」「こういうことだったのか」と理解が進みました。
さらに、その内容をメンバーに伝えていくと、メンバー側にも納得感が生まれ、「他の場面でも応用できるようになった」という声につながっていったんです。
移行率といった成果面だけでなく、現場の対話が変わったことも非常に印象的でした。言語化された『型』を導入したことで、ベテランは自分の強みを再認識し、若手は課題を自己認識できるようになりました。『型』が人を縛るのではなく、むしろ『型』があるからこそ質の高い対話が生まれるという変化を目の当たりにしました。
━━ 言語化や共通言語の整備は、現場にどのような変化をもたらしますか?
言語化が進むと、今まで感覚でやっていたことに意味づけができるようになります。
マネジャーが「このお客様にはこうしたらいい」と個別の場面で教えるだけでは、応用しにくいケースも少なくありません。しかし、なぜその行動が必要なのか、どういう考え方で進めるべきなのかが共通言語として整理されると、メンバーは別の場面でも自分で考えられるようになります。
さらに、組織内の対話も変わります。共通の視点や共通言語があることで、会話が感覚論に終わりにくくなり、互いに理解しやすくなるからです。実際、支援先でもメンバー同士の対話が活性化したという声がありました。
共通言語を持つことは、単に教えやすくするためだけではなく、組織の学習速度を高めることにもつながると感じています。
作業者ではなく伴走者になるために必要な視点
━━ フリーランスやクラウドワーカーが、伴走者として信頼されるには何が必要ですか?
大切なのは、相手が本当に解決したいことは何かを問い続ける力だと思います。
最初にオファーとして「こうしたい」という依頼は来るはずですが、それをそのまま受けて作業に入るだけでは、単なる実行者です。伴走者として関わるなら、その依頼の背景にある本質的な課題を捉えようとする姿勢が欠かせません。
仕事を進める中で、相手の状況も環境も心理も変わるものです。その変化を見ながら、今どういう状態なのか、何を目指しているのかを確認し続けることで、相手の中でも考えが整理されていきます。
その積み重ねが、スッキリ感や納得感につながり、結果として「この人はただ作業する人ではなく、一緒に考えてくれる人だ」という信頼になるのだと思います。
━━ クライアントとの関係づくりで大切になる「問い」とは何でしょうか?
問いというのは、単に質問の数を増やすことではありません。相手が自分でも曖昧にしている部分を整理し、言葉にできるようにするための関わりだと思っています。
依頼された内容を進めながらも、「今どんな状態なのか」「この先どうしたいのか」を丁寧に確認していくと、クライアント自身の認識も深まっていきます。その問いかけによって、相手の中に確信が生まれることがあります。
何となく進めていたものが、「自分たちはここに向かいたいんだ」と明確になると、その後の意思決定も進めやすくなる。問いを立て続けることは、相手に負荷をかける行為ではなく、むしろ整理を助ける行為なんです。
だからこそ、伴走者としての価値を生む重要な視点になるのだと思います。
営業の価値をアップデートし続けることが、働く人の未来をつくる
━━ シェルパワークスとして、今後どのような働く人の未来を実現したいと考えていますか?
営業という職業は、日本のビジネス人口の中でも大きな割合を占めていると認識しています。そして、AIをはじめとした環境変化によって、求められる役割は少しずつ変わっていくはずです。
ただ、営業そのものがなくなることはないと思っています。なぜなら、営業は組織と組織、人と人をつなぎ、人と組織の豊かさを紡いでいく役割だからです。
だからこそ、営業という仕事の価値を時代に合わせてアップデートし続けることが大事だと考えています。一方で、すべての企業が同じ速度でAIを活用できるわけではありません。
成熟度には差がありますし、「どう使えばいいのか分からない」という段階の組織もある。そうした違いを踏まえ、それぞれに合った関わり方で伴走しながら、営業が元気になる姿をつくっていきたいと思っています。
━━ 最後に、これからリスキリングに挑戦する人へメッセージをお願いします。
私自身、人生の転機のたびに、環境変化に伴う必然性の中でリスキリングをしてきました。
最初から準備を万全に整えて次の環境へ進んできたわけではありません。勝算があると思って飛び込んでも、実際には出鼻をくじかれることもありました。それでも、その環境の中で試行錯誤しながら学び続けてきたことが、自分の軸になってきたと感じています。
環境は待ってくれませんし、すべてを準備してから挑戦するのは難しいものです。だからこそ、変化が起きた時に、その必然性を受け止めて「ここからこれを学ぼう」とひとつ決めて動くことが大切なのだと思います。
そこで得た学びを概念化し、自分のものとして循環させていけば、新しい領域に対する自信も少しずつ生まれてきます。小さくてもひとつのサイクルを回し始めることが、次の壁を越える力になるのではないでしょうか。
まとめ
環境変化が激しく、AIの活用も広がる今、営業や組織づくりのあり方は大きな転換点を迎えています。そうした中で求められるのは、新しい知識を増やすことだけではなく、自分や組織の価値を時代に合わせて更新し続ける姿勢です。
米倉氏の言葉からは、リスキリングとは準備が整ってから始めるものではなく、変化の中で必要性を捉え、自らの軸へと変えていく営みであることが伝わってきます。経験を概念化し、問いを立て、共通言語を育てながら前に進むことが、個人にも組織にも次の成長をもたらすはずです。
変化を恐れるのではなく、その変化の中で何を学び、どう価値を高めていくか。その視点こそが、これからの時代を切り拓く力になるのではないでしょうか。
